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2011年1月27日木曜日

多和田葉子『Kafka Kaikoku (カフカ開国)』書き下ろし新作

『カフカ開国』多和田葉子氏インタビュー
ベルリン日独センター広報紙93号、2010年12月
http://www.jdzb.de/images/stories/documents/interview%20tawada%20yoko%20echo%2093-j.pdf

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2011年2月にベルリン日独センターで、多和田葉子書き下ろし舞台劇『カフカ開国』を上演します。出演はベルリンの劇団らせん舘で、計6回の公演を予定しています。原作者の多和田葉子氏は東京で生まれ、早稲田大学でロシア文学を専攻しました。初めてドイツを訪れたのは1979年、シベリア鉄道の旅です。1982年にハンブルクに移住し、ハンブルク大学でジーグリット・ヴァイゲル教授の下で現代ドイツ文学を専攻、チューリッヒ大学で文学博士号を取得します。1986年にドイツ語による作品がモノグラフ『Japan-Lesebuch』(テュービンゲン、Konkursverlag
出版)に収録されて文壇デビュー、翌1987年に日独語の詩集『あなたのいるところだけ何もない・Nur da wo du bist da ist
nichts』が刊行されます。日本で初めて刊行された単行本は1992年の『三人関係』(講談社)です。以後、日本語とドイツ語による執筆活動を続け、日独で多数の賞を受賞しています。
『カフカ開国』公演に向けて、本紙は2005年に本拠をベルリンに移した多和田葉子氏にインタビューしました。


編集部:『カフカ開国』は先生の最新の戯曲です
が、タイトルの意味および内容(簡単なあらすじ)
を教えてください。

多和田:これは、ドイツ語の「ウンゲツィーファー」
という単語をめぐる劇と言っていいかもしれま
せん。カフカの『変身』ではみなさんご存じのよ
うに、主人公グレゴール・ザムザがこの「ウンゲ
ツィーファー」に変身してしまいますが、邦訳は「
害虫」その他いろいろありますね。クルーゲ語源
辞典で調べてみると、この単語はもともと「不浄
な動物」、おそらく「不浄なので、生け贄にふさわ
しくない動物」という意味であったろうと書かれ
ています。変身してしまったグレゴールはもう仕
事ができなくなる、あるいは仕事をしなくてもよ
くなるわけです。両親の借金を返すために働か
なければならなかったはずが、変身してしまって
からは不思議なことに、借金のことはもう問題に
されず、結局は家族がグレゴールの妹の結婚に
未来への希望をたくすことで終わっています。
『カフカ開国』はこの謎に満ちたカフカの「変
身」を芝居にしたものですが、同時に日本の開
国に関する物語でもあり、「夜叉が池」が出てき
て、泉鏡花自身も登場します。鏡花は、日本の近
代化が始まっても江戸時代の妖怪を忘れること
なく、怪しい世界を言語の中にすくいとることに
成功した作家だと思います。


編集部:先生の文学創作活動において、カフカは
どのような意義をもつのでしょうか。


多和田:カフカの文学では言語そのものの魔
術性と超現実主義的な要素がお互いに作用し
あっていて、ドイツ語文学の中では例外的な存
在だと思います。カフカは中学生の時から好き
でしたが、後にヴァルター・ベンヤミンのおかげ
で、再発見することができました。わたしは世界
各国を旅してきましたが、カフカはいろいろな
文化圏で若い人に読まれています。日本やアメ
リカだけでなく、中国やイスラム圏でも熱心な
カフカの読者と出会うことができました。


編集部:先生は日本語とドイツ語で執筆活動を
続けておられますが、最新作はどちらの言語で
書かれましたか。また、その言語を選んだ理由
も教えてください。

多和田:『カフカ開国』では、ある国で作り上げ
た作品をもう一つの国に輸出するのではなく、
作り上げる過程で既に、わたしたちが生活し、
稽古し、シュピーレンしている場所から学びた
いと思いました。この場合、場所というのはドイ
ツ語のことです。「シュピーレン」というドイツ語
には「芝居を上演する」という意味もありますし、
言葉遊びをする場合の「遊び」もシュピーレンで
すね。前者はらせん館の仕事、後者はわたしの
仕事です。このお芝居には日本語の部分もあり
ますが、その部分は意味が分からなくても、音
として楽しめると思います。


編集部:劇団らせん舘は、1997年から『サンチョ
パンサ』『 舞台動物』『 旅をする裸の眼』等の先
生の作品を上演してきました。らせん舘は、「諸
文化の狭間において、言葉の可能性の限界を追
求し、現代的な演劇形式を開発すること」を目指
しています。先生も、日本語とドイツ語、また日本
文化とドイツ文化の間をひんぱんに往来する人
物と目されていらっしゃいます。そういう意味で先
生とらせん舘は気性の似通う、親和力が作用す
る同士と言えるでしょうか。


多和田:わたしは魂がたくさんあるので、これ
からも魂の呼びあうたくさんのアーチストと出
遭いたいと思っています。ただし、派閥や一族
を作る気はありません。らせん館は1992年から
わたしの作品を舞台にのせ続け、他には例のな
い独自の美学を作り上げてきています。今の時
代、母語の通じない場所で暮らしているアーチ
ストや知識人はたくさんいます。外国語を舌に
のせる感触は、時代を代表する感触と言ってい
いのではないでしょうか。外国語を話す時、穴
があいていたり、折れていたり、割れていたり、
壊れていたり、ゆがんでいたりする部分があり
ますが、そんなところにこそ、本当に知る価値の
ある事柄が見えてくると思うのです。


編集部:先生の創作活動は詩、エッセイ、散文、
戯曲、放送劇と幅広く、ピアニストの高瀬アキさ
んと一緒にベルリン日独センターでデュオ・パ
フォーマンスの公演をされたこともあります。一
番好きな創作ジャンルを特定することは可能で
しょうか。そして、文学者として最も大きな影響を
受けたのは、どのジャンルでしょうか。


多和田:戯曲を読むのは昔から好きで、シェイ
クスピア、チェーホフ、ギリシャ悲劇から始まっ
て、クライスト、ビューヒナー、ハイナー・ミュラー
など読みました。でも詩や散文などを読んだり
書いたりするのも戯曲と同じくらい好きです。
どのテキストも自分に合った形式を見つける
必要があります。だからいろいろなジャンルで
創作するのです。


編集部:『カフカ開国』は、「日独交流150周年」の
公式認定行事として上演されます。作品に、日独
関係に関する言及もありますか。


多和田:長い鎖国が終わって、日本は長い間閉
じていたささやかな扉を開きました。プロイ
センは近代化のスピードが速かったので日本
の近代化のお手本に選ばれました。でも近代
化を猛スピードで行なうことは人間や文化に
どのような影響を与えるのでしょう。江戸時代
の化け物や幽霊たちは姿を消す暇がなかった
ので、生き残り、最新技術、アニメ、マンガの中
に再登場します。日本はただただ遅れまいとし
て、近代化、軍事化、アジア隣国の植民地化、戦
争、民主化、工業化の中を突っ走ってきました。
今こそ足をとめて休息しながら、自分の国の歴
史を批判的に振り返ってみる時が来たのでは
ないかと思います。

あと何年生きられるのか、の統計:平均余命

【平均余命】 ある年の男女別にみた年齢別死亡率が将来もそのまま続くと仮定して、各年齢に達した人たちが、その後平均して何年生きられるかを示したものを平均余命(よめい)mean
expectation of lifeといい、出生時、つまり0歳時の平均余命をとくに平均寿命という。

厚生労働省:日本人の平均余命 平成21年簡易生命表
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life09/01.html

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