残酷な世界で生き延びる
たったひとつの方法
Only one method of survival in the cruel world
橘玲・著
TACHIBANA Akira
幻冬舎
2010年9月30日発売
定価1575円
ISBN978-4-344-01885-3
伽藍を捨ててバザールに向かえ!
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!
「やればできる」という自己啓発では、この残酷な世界を生き延びることはできない。
いま必要なのは、「やってもできない」という不都合な真実を受け入れ、
それでも実現可能な新しい成功哲学なのだ。
自己啓発の思想は、次の4つに要約できる。
(1)能力は開発できる。
(2)わたしは変われる。
(3)他人を操れる。
(4)幸福になれる。
これらの目標に到達する技術(スキル)は存在するのか?
そしてそれは、努力によって習得可能なのか?
目次
はじめに
序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学
ゼロ年代のカリスマ
アップルパイと縦列駐車
社会進化論を信じた大富豪
自己実現という神の宣託
一卵性双生児の再会
こころは遺伝するのか?
知能の70パーセントは遺伝で決まる
子ども成長に子育ては関係ない
「やってもできない」成功哲学
第1章 能力は向上するか?
1. 「やってもできない」には理由がある
4万年先の曜日を当てる双子
好き嫌いはなぜ生まれるのか?
電脳空間の原始人
ダメでも生きていける比較優位の理論
自由貿易は世界を幸福にする
2割の富裕層と8割の貧困層
2. 能力主義は道徳的に正しい
投資家たちのリスクゲーム
ぼくたちはみんな投資家で資本家
1億4000万円の人的資本
顔写真と生年月日のない履歴書
差別を擁護する良心的なひとたち
3. 「好きを仕事に」という残酷な世界
快適なマクドナルド化
マックジョブを選んだ高齢者
現代社会の最強の神話
バイク便ライダーの不都合な真実
第2章 自分は変えられるか?
1. わたしが変わる。世界を変える。
嫉妬のない男
"遺伝的に正しい"生き方
ヒトは肉食獣の餌だった
引き寄せの法則
親の愛情はいらない
自分を変えようとした男
無意識は考える
2 『20世紀少年』とトリックスター
草野球とビールの国のピーターパン
愛情空間と貨幣空間
権力ゲームのルール
囚人のジレンマ
しっぺ返し戦略
日本人はアメリカ人よりも個人主義?
アラブ人はユダヤ人が大好き
貨幣空間のトリックスター
3 友だちのいないスモールワールド
マクドナルドに誘われた日
貨幣空間はスモールワールド
親しい友人はなにもしてくれない
友だちのいない世界
残酷な愛情空間、冷淡な貨幣空間
第3章 他人を支配できるか?
1 LSDとカルトと複雑系
洗脳の三段階
CIAが開発した魔法の薬
幽体離脱とてんかん
脳の配線が神を生み出す
サイキックマフィア
権威と服従
2 こころを操る方法
�お返し�のちから
チンパンジーにも所有権がある
吸血コウモリと返報性の罠
影響力の武器
ハワイでタダのディナーを食べられた理由
「自分は特別」という妄想
社会的知性がマルチ商法にはまる
第4章 幸福になれるか?
1 君がなぜ不幸かは進化心理学が教えてくれる
ヤクザも魚も縄張りを守る
抗争しないという抗争
エディプスコンプレックスはでたらめ
セックス原理主義から遺伝子中心主義へ
こころというシミュレーション装置
平等も格差も遺伝子に刻印されている
ぼくたちが不幸な理由
2 ハッカーとサラリーマン
ハッカーは所有権を大事にする
やさしい独裁者
お金はゲームをだいなしにする
日本人は会社が大嫌いだった
日本的雇用が生み出す自殺社会
3 幸福のフリーエコノミー
無限の快楽をつくる技術
大富豪とマサイ族
バックパッカーのサーフィン
一期一会はぼったくりのチャンス
フリーが生んだ「評判」市場
悪人が善人になるネットオークション
悪評が自己増殖する死の世界
大富豪たちの社交パーティ
"友情化"する貨幣空間
終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!
雪の結晶
君にふさわしい場所
あとがき
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はじめに
この世界が残酷だということを、ぼくは知っていた。
この国には、大学を卒業したものの就職できず、契約やアルバイトの仕事をしながら、ネットカフェでその日暮らしをつづける多くの若者たちがいる。
就職はしたものの、過労死寸前の激務とストレスでこころを病み、恋人や友人にも去られ、果てしのない孤独に落ち込んでいくひともいる。
東京と高尾を結ぶ中央線はいまや自殺の名所で、リストラで職を失ったり、困窮の果てに生きる意欲をなくした中高年によってダイヤは始終混乱している。
小学生がいじめで自ら生命を絶つかたわらで、「品格」を説く老人たちは日本国の莫大な借金に怯え、年金を払えと大合唱している。
いまや誰もがいい知れぬ不安を抱え、グローバル資本主義や市場原理主義を非難し、迷走をつづける政治に不満を募らせている。国家は市場に対してあまりにも無力で、希望は永遠に失われたままだ。
15年くらい前、新宿に巨大なダンボールハウスの集落があった。その頃ぼくは人生の危機を迎えていて、新宿駅で降りるたびに、西口改札前広場や、東京都庁への地下道や、新宿中央公園のホームレスを眺めて長い時間を過ごしたこともあった。
そのうちぼくは、ほかにも同じようなひとたちがいることに気がついた。彼らはくたびれたスーツを着ていたり、工務店や運送会社の制服姿だったり、りゅうとした身なりの紳士だったりした。目を合わすことも、口をきくこともなかったけれど、ぼくたちはみな同じ空間を共有していた。その空間は、恐怖に満たされていた。
ぼくはホームレスに興味があったわけでも、彼らのためになにかしたいと思っていたわけでもない。ただ、自分がなぜ彼らに引き寄せられるのかを知りたかっただけだ。ほんのささいなきっかけで金銭も愛情も失ってしまえば、あとは彼らの隣人として生きていくほかはない。
それと同じ恐怖が、いまや日本じゅうを覆っている。それについてぼくがなにか語れるとしたら、その匂いを知っているからだ。
*
グローバルな能力主義の時代を生き延びる方法として、自己啓発がブームになっている。ぼくはずっと、自己啓発に惹かれながらもうさんくさいと感じていて、そのことをうまく説明できなかった。能力開発によって、ほんとうにすべてのひとが救われるのだろうか。
自己啓発の福音は、次の四つだ。
1. 能力は開発できる。
2. わたしは変われる。
3. 他人を操れる。
4. 幸福になれる。
巷にあふれる自己啓発本では、これらの目標に到達するさまざまな技術(スキル)が解説されている。でもここでは、そうしたノウハウの優劣を評価するつもりはない。
自己啓発は、正しいけれど間違っている。ぼくたちのこころが進化の過程でつくられてきたという新しい考え方が、この不思議を解く糸口を与えてくれる。
といってもこれは、脳科学や進化心理学の本ではない。なぜ自己啓発がこれほどぼくたちを惹きつけ、けっきょくは裏切るのか。ぼくたちはどうしていつも不幸なのか。そして、世界はなぜこれほどまでに残酷なのか。その理由を、誰にでもわかるように説明してみたい。もちろん、専門知識はいっさい不要だ。
自己啓発の伝道師たちは、「やればできる」とぼくたちを鼓舞する。でもこの本でぼくは、能力は開発できないと主張している。なぜなら、やってもできないから。
人格改造のさまざまなセミナーやプログラムが宣伝されている。でも、これらはたいてい役には立たない。なぜなら、「わたし」は変えられないから。
でも、奇跡が起きないからといって絶望することはない。ありのままの「わたし」でも成功を手にする方法(哲学)がある。
残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、たった2行に要約できる。
伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。
なんのことかわからない? そのヒミツを知りたいのなら、これからぼくといっしょに進化と幸福をめぐる風変わりな旅に出発しよう。
最初に登場するのは、�自己啓発の女王�だ。
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著作一覧
1. 亜玖夢博士の経済入門 / 橘玲. -- 文藝春秋, 2010.6. -- (文春文庫)
2. 亜玖夢博士のマインドサイエンス入門 / 橘玲. -- 文藝春秋, 2010.3
3. 知的幸福の技術 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2009.10. -- (幻冬舎文庫 ; た-20-4)
4. 貧乏(ビンボー)はお金持ち / 橘玲. -- 講談社, 2009.6
5. 永遠の旅行者. 下 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2008.8. -- (幻冬舎文庫)
6. 永遠の旅行者. 上 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2008.8. -- (幻冬舎文庫)
7. 黄金の扉を開ける賢者の海外投資術. 究極の資産運用編 / 橘玲,海外投資を楽しむ会. -- ダイヤモンド社, 2008.7
8. 黄金の扉を開ける賢者の海外投資術. 至高の銀行・証券会社編 / 橘玲,海外投資を楽しむ会. -- ダイヤモンド社, 2008.7
9. 黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 / 橘玲. -- ダイヤモンド社, 2008.3
10. 亜玖夢博士の経済入門 / 橘玲. -- 文藝春秋, 2007.11
11. マネーロンダリング入門 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2006.11. -- (幻冬舎新書)
12. 臆病者のための株入門 / 橘玲. -- 文藝春秋, 2006.4. -- (文春新書)
13. 不道徳教育 / ウォルター・ブロック[他]. -- 講談社, 2006.2
14. 永遠の旅行者. 下 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2005.7
15. 永遠の旅行者. 上 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2005.7
16. 雨の降る日曜は幸福について考えよう / 橘玲. -- 幻冬舎, 2004.9
17. 「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 / 橘玲,海外投資を楽しむ会. -- 講談社, 2004.8. -- (講談社+α文庫)
18. 得する生活 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2003.11
19. マネーロンダリング / 橘玲. -- 幻冬舎, 2003.4. -- (幻冬舎文庫)
20. 世界にひとつしかない「黄金の人生設計」 / 橘玲,海外投資を楽しむ会. -- 講談社, 2003.11. -- (講談社+α文庫)
21. お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 / 橘玲. -- 幻冬舎, 2002.12
22. マネーロンダリング / 橘玲. -- 幻冬舎, 2002.5