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2011年1月31日月曜日

『公共事業が日本を救う』藤井聡著、文春新書、872円

公共事業が悪だという認識自体が、大きな誤解に基づいている。

本書は、公共事業が悪玉にされる現状に異を唱え、そして「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズとともに脱公共事業を打ち出す民主党政権の政策に疑問を投げかけるものである。

 われわれは「日本の公共事業は過剰だ」という認識を持っている。これまで、GDP(国内総生産)に占める公共事業費の割合の国際比較をもって、そのことが幾度も示されてきた。だが、土木工学の専門家である著者は、そのデータの不備や操作された箇所を見出し、同じ指標で国際比較をやり直す。その結果、日本の公共事業の割合は、アメリカやカナダを下回っていることを指摘する。国際比較という点では、決して日本の公共事業費の割合は高くはないのだ。

 さらに筆者は、ムダな公共事業こそが、昨今の財政悪化の原因という常識も覆す。社会保障関係費と公共事業関係費のここ10数年の推移を示した図表を見ると、1998年度には約15兆円とほぼ同額だった両者の額は、この12年間で大きく差がついたことがわかる。公共事業関係費は、年々下がり続け、
2010年度では半分の7兆円を下回る。一方、社会保障関係費は、2倍近い25兆円を超える規模に増えている。

 ここから明確になるのは、現在の財政赤字の急増は、社会保障関係費によってもたらされたという事実である。公共事業を減らしたところで焼け石に水であり、逆に急務なのは、ふくれあがる社会保障関係費の抑制であることがよくわかる。

 本書の核であるこれらの指摘は、第1章のたった31ページで鮮やかに示される。以後のページでは、公共事業を止めることのデメリット、ダムの有用性、日本道路の効率性などが語られるほか、最近の新書でネタとされることの多いコンパクトシティを巡る議論につながる内容も盛り込まれている。これらを読み飛ばして構わないとまでは言わないが、そう言い切ってしまいたいほどに、第1章は必読だ。

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