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2010年4月21日水曜日

『働きすぎに斃れて—— 過労死・過労自殺の語る労働史 ——』はたらきすぎにたおれて

働きすぎに斃れて
—— 過労死・過労自殺の語る労働史 ——
熊沢 誠
■体裁=四六判・上製・398頁
■定価 3,360円(本体 3,200円 + 税5%)
■2010年2月18日
■ISBN978-4-00-024456-5 C0036
死にいたるまで働く人びと,それはまるであなた自身の姿ではないか──.ふつうの労働者が「しがらみ」に絡めとられながら限界まで働くことによって支えられてきた日本社会.そのいびつな構造が生み出した50件以上もの過労死・過労自殺の事例を凝視し,日本の労働史を描き出す.変革のための鎮魂の物語.

熊沢 誠
 ここ10年ほど,労働研究はもっぱら格差社会の底辺,非正規ワーキングプアの累積に焦点を絞っている.私自身も前著のなかで不十分ながら試みたことであり,ワーキングプアへの注目は今日,もちろん必須の要請であろう.だが,たとえば「漂流フリーター」や日雇派遣の若者の文字どおりの生活苦は,正社員の若者たちの,働きすぎの挙げ句に頻発する「心の危機」,退職,過労自殺……とまさに表裏一体なのだ.非正規雇用者を正社員にすればことは済むというものではなく,改善に向けた労働の構造分析はその両者を貫くものでなければならない.そう考えて私はひそかに,過労死・過労自殺に関する著作を世に問うことの意義をみずからに納得させようとしている.
 いま痛切に願うことは,できるだけ多くの現役の働き手たちが,執拗にすぎるほど紹介された死の事例を読むことを通じて,「これは私にも起こりえたことかもしれない」と,みずからの勤労の日々を顧みてくださることである.

1章 過労死・過労自殺——ありふれた職場のできごと
  1節 ある証券マンの過労死
  「東の横綱」の献身/挫折——過労死認定のプロセス
  2節 本書の内容・構成・方法
  過労死・過労自殺のケーススタディ/本書の構成/なにを主資料とするのか/労働史への透視
  3節 過労死・過労自殺問題への入門
  過労死問題の社会的認知/過労死・過労自殺の数的動向/労災認定基準の推移(1)/労災認定基準の推移(2)/労災認定基準の推移(3)/執拗な長時間労働/仮説——過労死・過労自殺の諸要因
 2章 トラック労働者の群像
  1節 死にいたる疾走
  帯広の斉藤英治/西宮の藤原武史/京都の市川守/観光バス運転手,織田清志の場合
  2節 背景の考察
  トラック労働者の位置/業界の重層構造と小企業労働者への犠牲転嫁
  3節 労災認定のゆくえ
  不支給処分の続発と行政訴訟/埋もれた過労死/労働組合の支援がもたらす成果
  4節 現時点の状況
  経済的規制緩和のインパクト/社会的規制の強化と労働現場の対応
 3章 工場・建設労働者の過労死
  1節 電気工事と製本工場の労働現場
  花博会場の電気工事/仮屋忠一の死/デザイン博と鈴木竜雄/製本断裁工の金井義治
  2節 職務の激変がもたらすもの
  大手電機工場から販売店へ/大企業の写真製版工から子会社の包装工へ/中居百合子16年の闘い
  3節 中小企業ブルーカラーの働きすぎ
  企業規模別労働時間の諸相/分社化と下請け化/経営環境と低賃金に強制されて
 4章 ホワイトカラーとOLの場合
  1節 単身赴任のひとり作業
  サービスエンジニアの三木孝男/編集・校正の村上晃
  2節 疲弊する営業マン
  オフィスの性別職務分離——男性の営業・女性の事務/火災保険の営業マン早川勝利の場合
  3節 富士銀行一般職の岩田栄
  事件の概要/民事裁判の証言者たち/富士銀行職場の諸相/それからのこと——女性労働者の分化
 5章 斃れゆく教師たち
  1節 いくつかの事例
  愛知県の小学校で——岡林正孝の場合/千葉県の中学校で——中野秀夫の場合/静岡県の高校で——大野芳温の場合/名古屋の中学校で——柏木恒雄の場合(1)/名古屋の中学校で——柏木恒雄の場合(2)
  2節 教師の公務災害認定
  教育公務員の特殊性/過労死告発のゆくえ(1)/過労死告発のゆくえ(2)/教師の「先駆的」な過労自殺
  3節 90年代半ば以降における教師の労働環境
  教育労働の繁忙と心労/「学校問題」の趨勢と変化/教師の孤立化とストレス
 6章 管理職と現場リーダーの責任
  1節 埋もれる管理職の死
  扶桑化学の若き工場長/食肉販売会社の営業部長/広告代理店の制作部副部長/三井物産課長の石井淳
  2節 労働現場のチームリーダーたち
  カルビーの要田和彦(1)——その職務責任/カルビーの要田和彦(2)——その長時間労働/椿本精工の平岡悟/平岡チエ子と弁護団の闘い
  3節 典型的な企業戦士の死
  「無言の強迫体制」——企業目標=個人ノルマの界隈/「名ばかり管理職」への道
 7章 過労死の1980年代
  1節 労働時間短縮の期待と現実
  労災認定をめぐる行政と企業/目標としての「年1800時間」/経済企画庁の「個人生活優先社会」論/「日本的経営」と労働時間の現実
  2節 労働者の適応と妻たちのメッセージ
  「適応」のかたちにみる階層差のゆくえ/「ふつう」のための「猛烈」/「仕事人間」に問いかける妻たち
 8章 過労自殺——前期の代表的な5事例
  1節 サンコー班長の飯島盛
  発展途上メーカーの新鋭工場/体力と気力の喪失/飯島千恵子の闘い
  2節 トヨタ自動車の久保田敦
  設計課のエリート係長/「出図」納期に追われる過重労働/自死に辿るプロセス/労災認定・行政訴訟の攻防
  3節 日立造船の下中正
  新型舵取機の設計納期/非情の労基署決定と民事訴訟
  4節 下田市の観光課係長
  繁忙と心労——黒船祭と世界レスキュー大会/自殺前後の夫と妻
  5節 川崎製鉄の生産管理掛長・渡邉純一
  高卒掛長のがんばり/「管理者」の「自主的な労働」——「常軌を逸した長時間労働」/投身自殺にいたる日々/損害賠償請求・民事裁判の軌跡
  6節 短い総括——現場リーダーたちの過労自殺
 9章 若者たち・20代の過労自殺
  1節 電通過労自殺事件の衝撃と余波
  大嶋一郎の働きすぎ/損害賠償提訴——画期的な勝訴へのプロセス
  2節 オタフクソースの木谷公治
  ソース製造工場の労働環境/心身の疲弊と自死/木谷照子の闘い
  3節 ニコン職場の上段勇士
  偽装請負の派遣労働/クリーンルームでの過重労働の果てに/派遣元および派遣先の損害賠償責任
  4節 死に急ぐ若年ホワイトカラー
  九州テンのシステムエンジニア/北海道銀行の得意先係/関東リョーショクの営業マン/辞めなかった女性たち
  5節 若者たちの過労自殺——その要因と背景
  若者労働の環境変化/職場の人間関係とストレス/それにしてもなぜ辞めなかったのか
 10章 ハラスメントと過重労働のもたらす死
  1節 ノルマ達成の督励
  裁量労働制下の研究員/レストラン店長に課せられる「責任」/寺西彰の自殺と損害賠償提訴
  2節 いじめと過重労働のきわみに——あるソフトウェア会社の事例
  釘宮恵路の受難(1)/釘宮恵路の受難(2)/裁かれる上司
  3節 製薬会社・MRの場合
  いじめと自殺/堀川恒雄の遺したもの
  4節 中部電力主任の焼身自殺
  関川洋一の仕事/長時間労働と「能力評価」の真偽をめぐって/課長MKの圧迫/死にいたる日々/労基署・地裁・高裁
  5節 パワーハラスメントと過労自殺
  職場のいじめ——その増加の背景/激増する自殺のなかの過労自殺
 終章 過労死・過労自殺をめぐる責任の所在
  1節 最後の事例——トヨタ自動車班長の死
  割愛された諸事例/内野健一の広範な業務責任/せめてヘッドライトをつけて帰りたい/内野博子の闘いと労災認定のゆくえ
  2節 過労死・過労自殺の企業責任
  ふたたび長時間労働について/ノルマのくびき/QC活動は「業務」か——「暗黙のノルマ」をめぐって/ある調査にみる「最近の職場の変化」/過労死・過労自殺の諸類型
  3節 企業の要請を規制する主体——行政と労働組合
  労災認定の労働行政/会社と労基署の癒着/内野夫妻とトヨタ自動車労組/企業別労働組合の性格/「個人処遇」規制からの撤退
  4節 過労死・過労自殺の労働者像
  日本の労働者の主体性/「唯一の生活安定手段」としての「会社人間」化/「囚われびと」としての労働者/むすびにかえて——「市民」と「労働者」
  あとがき
  参考文献

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