小説に関する試論
田口卓臣 著
●ISBNコード 978-4-7599-1761-1
●判型 A5
●ページ数 310頁
●発行年月日 2009-11-30
●価格 7,875円(本体 7,500円)
出版 : 風間書房
▼解説
18世紀フランスを代表する思想家、ドニ・ディドロの小説に関する日本で初めての本格的な研究書。傑作『運命論者ジャックとその主人』の訳者による長年の研究成果をまとめた本書は、フィクションを介して人間の限界の認識を表現するディドロ独自の方法を丹念にあぶりだすことによって、誤解と偏見にあふれた「啓蒙主義」のイメージを一掃する野心作でもある。
【著者略歴】
田口卓臣(たぐち たくみ)
1973年生。2007年東京大学大学院博士後期課程修了、博士(文学)。
現在、宇都宮大学専任講師(フランス文学・思想)。
▼目次詳細
序 文
第一部 小説の方法
�章 特権的な話者の不在
1:一方向的な語り
『修道女』 不在の読者へのよびかけ
『ブルボンヌの二人の友』 相対化されつづける証言
2:双方向的な語り
『ラモーの甥』 対話者間の葛藤
『これは作り話ではない』 聴き手に邪魔される語り手
3:重層的な語り
『ド・ラ・カルリエール夫人』 世間の一員としての語り手
『ブーガンヴィル航海記補遺』 転倒につぐ転倒
�章 作品世界の俯瞰不能性
1:物語の予測不能性
唐突な始まり—コント三部作の冒頭
アクシデントの連続—『ある父とその子どもたちの対話』を中心に
終わりの宙吊り—『ミスティフィカシオン』を中心に
2:翻訳と欠落
『おしゃべりな宝石たち』 「原典」から遠く離れて
『ブーガンヴィル航海記補遺』 「自然」の成形の不可避性
�章 『運命論者ジャックとその主人』
1:証言とその主体
方法としての多声性
あらゆる話者の限界
2:不可知なものの明示
「運命」としての物語、その不可知性
決定的な「原典」の不在、物語の欠落・断片化
第二部 個としての人間
�章 認識、判断、その限界
1:全知の不可能性
「水星の周転円の上」、「みじめな学問」—『ラモーの甥』における二つの比喩
戦場のなかの個—『運命論者ジャックとその主人』におけるある描写の場面
「仮説」を壊す「実験」—『おしゃべりな宝石たち』第一巻・第二十九章のアレゴリー
2:認識、判断、その決定不能性
記号の解釈の分裂—馬の「お告げ」と「葬列」の意味
善悪の決定不能性—グッスの人物像を中心に
�章 意志、統御、その限界
1:意志、統御、その限界
自由意志の否定—ジャックの召使遍歴
意図と結果の齟齬—宿屋の「おかみ」とタニエ
言葉と行動の齟齬—ジャックとセネカ
意識と身体—デブロッスの証言
2:誘惑、陰謀、その帰結
「私」、グッス、ド・サンフロランタン家の執事、ユドソン
ド・ラ・ポムレー夫人とド・サントゥアン騎士
ジュザンヌ
�章 懐疑と肯定
1:懐疑と肯定
ビュリダンの驢馬の不可能性—『ダランベールの夢』の一節
懐疑と次善の選択—『哲学断想』と『ある父とその子どもたちの対話』
「後世」にむけて—『ド・ラ・カルリエール夫人』と『運命論者ジャックとその主人』における矯正可能性のテーマ
2:この世界の肯定
運命論による自己解放
この世界の肯定
交換不能な個の生成—ジャック、デロシュ、フェリックス
第三部 個と共同体
�章 性愛と一夫一婦制
1:可変性の原理
絶えざる生成変化—『盲人に関する書簡』におけるソーンダーソンの世界観
「雲」、「霧」、ラモー
2:性愛の逆説
性愛の可変性—『運命論者ジャックとその主人』の一節、『これは作り話ではない』におけるガルドゥイユの発言
貞節、嫉妬、その不可避性
3:一夫一婦制の不可能性と不可避性
出会い、結婚、その破錠—コント三部作、『運命論者ジャックとその主人』
一夫一婦制の外見と内実—『おしゃべりな宝石たち』
一夫一婦制の心理的・政治的機能—『ブーガンヴィル航海記補遺』
一夫一婦制の不可避性—「三つの法典」の分析を中心に
�章 一夫一婦制のオルタナティヴとその限界
1:優学生とその破錠—ユートピア批判としての『ブーガンヴィル航海記補遺』
2:「みんな」に攻囲される「私」—監獄批判としての『修道女』
監獄としての修道院
監視、処罰、スペクタクル
遍在する監視網
逸脱する「私」、その生理と戦略
3:無法者たち、その友愛の共同体—マンドランの一党、ブルボンヌの密輸入
補論:規範からの逸脱
「酵母」としてのラモー
通り、街道、宿屋—コードなき旅人たちの空間
哲学者(フイロゾフ)、あらゆるものの批判者
結 論
1:本研究の成果
2:本研究の限界と今後の展望
注
参考文献
あとがき