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2010年6月9日水曜日

『なぜ女性はケア労働をするのか 性別分業の再生産を超えて』

ケアの社会化は、性別分業を家庭から労働市場へと拡大、再生産させた。今後もケアは女性労働でありつづけるのだろうか。

「ケアの社会化」は、家庭の性別分業と結びつきながら、ケア労働市場のジェンダー構造を再生産している。なぜ、家庭の性別分業は再生産されるのか。なぜ、低賃金のケア労働に女性は従事するのか。本書は、家庭から労働市場への性別分業の拡大、再生産メカニズムを明らかにするとともに、女性の能動的実践と、社会変動の可能性を探る。

女性がケア労働をするのは、家父長制や権力によって強いられた選択のためなのでしょうか。それとも「ケア=女性の責任」という規範を内面化した女性の自発的選択のためなのでしょうか。この本で試みたのは、この二つの説明のどちらにも依拠せず、性別分業の再生産メカニズムを説明することです。女性は限られた選択肢のなかで試行錯誤しながら生きていくうちに、育児や介護というケア労働を担うことを選択している。また性別分業を不都合なものとみなせば、手持ちの資源を用いて現状を変えようと試みてもいる。本書ではこうした実践を、ポスト構造主義フェミニズムの「エージェンシー」概念を用いて説明しました。前半では家庭のケア、後半では社会化されたケアを対象に、性別分業の再生産における女性のエージェンシーを明らかにし、またワーカーズコレクティブや男性ヘルパーの実践をめぐる事例研究から、性別分業の変動の可能性について考察しました。

山根純佳 著(1976年生まれ。博士(社会学)。東京大学大学院人文社会系研究科、日本学術振興会特別研究員、法政大学非常勤講師をへて、2010年4月から山形大学人文学部講師。)
ISBN 978-4-326-65352-2
出版年月 2010年2月
判型・ページ数 四六判・340ページ
定価3,465円(本体価格3,300円)

はしがき

序 章 性別分業論に今何が必要とされているか
 1 ケアの社会化と変動──家庭から労働市場への性別分業の拡大と再編
 2 なぜ女性はケア労働をするのか──「物質構造決定論」と「主体選択論」
 3 近年のジェンダー研究の二つの潮流──「言説」と「資源配分」
 4 本書の枠組──エージェンシーと性別分業の再生産・変動

第一章 性別分業の再生産論の到達点と課題──「能動的実践」とは何か
 1 ギデンズとブルデューの「構造」と「実践」
 2 言説による実践の構造化─江原のジェンダー秩序論
 3 再生産論の乗りこえ──「構造」「実践」「権力」「カテゴリー還元的説明」

第二章 性別分業再生産におけるエージェンシー──なぜ女性は家庭に入るのか
 1 マルクス主義フェミニズムにおける「家父長制」と「唯物論」
 2 家庭における家父長制──デルフィの家内制生産様式
 3 労働市場における家父長制──ハートマンの「労働力の支配」
 4 家父長制概念への批判──性別分業再生産における男性と女性の実践
 5 家父長制から「ジェンダー」へ──労働市場の性別職域分離
 6 性別分業を選択する女性の利益──世帯単位の合理的選択

第三章 言説に対する批判的解釈実践──なぜ女性はケア責任を重視するのか
 1 無意識におけるケアの価値──チョドロウの母親業の再生産論
 2 女性の発達とケアの価値──ギリガンの「ケアの倫理」
 3 「ケアの倫理」への批判──女性の声の多様性と排除された声
 4 母親の経験とケアの価値──ケア倫理学における女性の価値
 5 ケア責任を構成する構造的条件──資源配分と他者の言説実践
 6 批判的解釈実践と変動の契機

第四章 家庭における交渉実践と変動──ケア労働の配分をめぐる交渉と権力
 1 男女間の「権力」をめぐる理論的対立──経済資源と言説
 2 権力資源と権力作用の多様性
 3 交渉実践のバリエーション──育児をめぐる交渉実践1
 4 交渉実践における意識と利益の変容──育児をめぐる交渉実践2
 5 介護責任をめぐる「見えない交渉」
 6 交渉実践による性別分業の変動と構造的限界

第五章 女性ケアワーカーの交渉実践
 1 ケア労働市場のジェンダー構造の再生産メカニズム
 2 介護労働市場におけるワーカーズコレクティブの位置
 3 ワーカーズコレクティブの交渉実践──自律的な労働を求めて
 4 ワーカーズコレクティブの実践の効果

第六章 男性ヘルパーの交渉実践と性別職域分離
 1 女性職における男性ヘルパーの位置
 2 男性ヘルパーの生存戦略──同化戦略、差異化戦略
 3 ケアワーカーの交渉実践の変動力と構造的限界

終章 性別分業の再生産を超えて
 1 エージェンシー概念の意義と貢献──構造決定論の乗りこえ
 2 性別分業の性支配性と解消策──結果の不平等と交渉力の格差
 3 今後の課題──「女性間の多様性」と「女性間の格差」

あとがき
参考文献
人名索引・事項索引

第5回ジェンダーコロキアム

書評セッション

山根純佳(2010)『なぜ女性はケア労働をするのか──性別分業の再生産を超えて』

日時:2010年7月1日(木)18:40-20:30

場所:東京大学法文1号館315号室(本郷キャンパス)
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_01_01_j.html

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