株式会社 資生堂
会期:
2010年6月19日(土)~8月8日(日)
会場:
資生堂ギャラリー
〒104-0061
東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
Tel:03-3572-3901 Fax:03-3572-3951
平日 11:00~19:00 日曜・祝日 11:00~18:00 毎週月曜休 入場無料
*7月19日は祝日ですが休館いたします
後援:
チェコ共和国大使館
Czech Centre Tokyo
チェコ共和国の首都プラハは、スラブ文化圏における芸術文化の中心的役割を担ってきました。1910年代末よりダイナミックな前衛芸術運動が展開され、チェコ・アヴァンギャルドがおこるなど、中欧のみならずEU、ロシア等、他地域へも多大な影響を与えています。また近年では、日本でもブックデザインや絵本、アニメーション映画をはじめとするチェコの独特な芸術文化への人気が高まっています。
本展では、その芸術文化の一翼を担う写真表現に焦点をあわせ、現代のチェコを代表する下記の10名の写真家を紹介します。
ウラジミール・ビルグス、 ヴァーツラフ・イラセック、 アントニーン・クラトフヴィール、
ミハル・マツクー、 ディタ・ペペ、 イヴァン・ピンカヴァ、 ルド・プレコップ、トノ・スタノ、
インドジヒ・シュトライト、テレザ・ヴルチュコヴァー
写真の創成期より連綿と続く伝統と歴史を継承し、新たな表現を開拓し続けてきたチェコ写真の現在を、ポートレート、風景、フォトモンタージュ、ドキュメンタリーなど多岐に渡る彼らの作品を通して紹介します。
1830年代半ばの写真登場直後より、チェコ・スロバキアにも写真技術は伝わり、当時から多くの写真家たちが活躍していました。そして1990年以降、写真が芸術表現の手法として用いられるようになるとともに、同国からフランティシェク・ドルティコル、ヨゼフ・スデック、ヤン・サウデック、ヨゼフ・コーデルカなど、多くの重要な写真家が輩出されてきました。1991年のソビエト連邦解体から自由化を経て、旧共産圏の芸術文化が一挙に世界中へ広まりましたが、チェコの写真表現もその潮流にのり、欧米をはじめとする西側諸国へと広く知れ渡ることとなりました。そして1998年から99年にかけて、バルセロナ、パリ、ローザンヌ、プラハ、ミュンヘンの5都市で「モダンビューティー:チェコ・アヴァンギャルド写真1918-1948」展が開催され、チェコの写真芸術を世界的に認知させることとなりました。また2005年には、プラハ工芸美術館とプラハ市ギャラリーの2館を会場に、「チェコ20世紀写真展」が開催されました。同展は、チェコ国内で初めて20世紀におけるチェコ写真の歴史と発展を紹介するという趣旨のもと、400人以上のチェコ・スロバキア人写真家による作品約1300点が出品され、その後2009年にドイツ・ボンの国立芸術展覧会ホールへも巡回しています。
本展は、その独特な表現と作品水準の高さで世界的に注目を集めるチェコ写真の現在を紹介する、日本初の展覧会となります。モノクローム写真を主流として独自の発展を続けてきたチェコ写真を現在最も注目を集める10名の写真家の作品約50点を通してお楽しみください。
ウラジミール・ビルグス
Vladimír Birgus
1954年 チェコ共和国フリーデク=ミーステク生まれ
都市風景や人々を題材に構成的な作品を撮る。写真家としてのほか、教育者、写真研究家としても活躍
ヴァーツラフ・イラセック
Václav Jirásek
1965年 チェコ共和国カルヴィナー生まれ
ポートレートや風景に荒廃、死といった耽美的イメージを重ね合せ、それらが引き起こす人間の反応を表現
アントニーン・クラトフヴィール
Antonín Kratochvíl
1947年 チェコ共和国ロヴォシッチェ生まれ
ポートレートとドキュメンタリー写真の領域で活躍、ドラマチックなルポルタージュで世界的名声を獲得
ミハル・マツクー
Michal Macků
1963年 チェコ共和国ブルンタール生まれ
アイデンティティの喪失と破壊をテーマに、独自の技法による"Gellage"シリーズを制作
ディタ・ペペ
Dita Pepe
1973年 チェコ共和国オストラヴァ生まれ
現代社会における多様な女性たちをテーマに、自身がその対象に扮する「Self-portraits」シリーズを制作
イヴァン・ピンカヴァ
Ivan Pinkava
1961年 チェコ共和国ナーホト生まれ
神話や古典、中世の巨匠による絵画作品からのインスピレーションをもとに聖書を題材にした作品を制作
ルド・プレコップ
Rudo Prekop
1959年 スロバキア共和国コシツェ生まれ
ステージド・フォトグラフィの領域において紙の断片や鏡の破片などを用いるなど、独創的な作品を制作
トノ・スタノ
Tono Stano
1960年 スロバキア共和国ズラテー・モラフツェ生まれ
女性の身体をモチーフに、独創的で洗練されたモノクローム写真を制作
インドジヒ・シュトライト
Jindřich Štreit
1946年 チェコ共和国フセチーン生まれ
世界的に活躍するドキュメンタリー写真家。世界各地を廻り、素朴な人間の存在と美しさをテーマに撮影
テレザ・ヴルチュコヴァー
Tereza Vlčková
1983年 チェコ共和国フセチーン生まれ
少女をモデルに、場所・時代が漠然とした、神話や寓話を思わせる神秘的なイメージの作品を制作
朝日新聞夕刊評(2010年7月28日)
『チェコの空気ムンムン「暗がりのあかり」 銀座で写真展』
グローバル化が進んでも、美術作品にはその国の空気を感じさせるものがある。東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催中の「暗がりのあかり――チェコ写真の現在展」は、チェコの空気に満ちた展覧会だ。同国の写真表現の全体像を紹介しようと、20~60代の幅広い年代から10人を選び、49点を展示。分野別に壁に並べた。
ドキュメンタリー写真では、インドジヒ・シュトライトが近代化で失われつつあるチェコの田舎暮らしを、アントニーン・クラトフビールが戦争や民族対立に揺れる中東欧を撮る。
ヌード写真の分野で、トノ・スタノはポーズを取ったモデルの裸を写す。「センス」(1992年)では女性の身体が官能的な一本の曲線に。ミハル・マツクーは、写真上で自分の裸体を引き裂く。モノクロームの作品の中には、耽美(たんび)的だったり、不穏や疎外を感じさせたりするものが多い。
テレザ・ブルチェコバーのカラー写真も不気味だ。作品には双子の少女が並んで写るが、中にはデジタルで合成した偽の双子もいるという。
チェコの人口は日本の10分の1以下。だが、担当した資生堂の井関悠学芸員は「写真家の層は厚い。伝統と歴史を尊重した上で自分のスタイルを追求している」と話す。
首都プラハは、スラブ文化圏の芸術の中心地の一つ。重々しくて濃密なチェコの空気を感じることができる写真展だ。(西田健作)