(人を「shallow(浅薄)」にする、物事について創造的に、複雑に、概念的に考えることをできなくさせる傾向がある)
201007刊/四六判/364頁
C0030 定価2310 円(本体2200 円)
ISBN978-4-7917-6555-3
[著者] ニコラス・G・カー(Nicholas G.Carr)
著述家。『ガーディアン』 紙などでコラムを連載するほか、多くの有力紙誌に論考を発表。テクノロジーを中心とした社会的、文化的、経済的問題を論じる。著書は多くの言語に翻訳され、日本での既刊書に、『
IT にお金を使うのは、もうおやめなさい』(ランダムハウス講談社)、『クラウド化する世界』(翔泳社)がある。『エンサイクロペディア・ブリタニカ』
の編集諮問委員会、ならびに世界経済フォーラムのクラウド・コンピューティング・プロジェクト運営委員会のメンバーである。
[訳者] 篠儀直子(しのぎ・なおこ)
名古屋大学大学院(西洋史学)・東京大学大学院(表象文化論)を満期退学後、東京大学などで非常勤講師。訳書に、『フレッド・アステア自伝』、『グローバル権力から世界をとりもどすための13人の提言』(ともに青土社)など、共訳書に、『働かない
「怠けもの」 と呼ばれた人たち』(青土社)、『ヒップ アメリカにおけるかっこよさの系譜学』(ブルース・インターアクションズ社)などがある。
2010年6月刊が日本で翻訳本が7月30日発行という異例の早さ
【目次】
謝辞
プロローグ——番犬と泥棒
第1章 HALとわたし
第2章 生命の水路
脱線——脳について考えるときに脳が考えることについて
第3章 精神の道具
第4章 深まるページ
脱線——リー・ド・フォレストと驚異のオーディオン
第5章 最も一般的な性質を持つメディア
第6章 本そのもののイメージ
第7章 ジャグラーの脳
脱線——IQスコアの浮力について
第8章 グーグルという教会
第9章 サーチ、メモリー
脱線——この本を書くことについて
第10章 わたしに似た物
エピローグ——人間的要素
注
もっと知りたい人のための文献一覧
◆脳とその可塑性
◆本の歴史
◆読者の精神
◆地図、時計など
◆知性の歴史におけるテクノロジー
◆コンピュータ、インターネット、人工知能
訳者あとがき
索引
■趣旨
あれやこれやの情報に振り回されないで、一人で集中して熟考したほうがよい
沈思黙考しなければ、思慮深くなる方法を学ぶことはできない
印刷された本の素晴らしいところは、われわれを"注意散漫"にさせないことだ。本を
読むということは、静止した対象に向かい直線的にひたすら注意や思考を持続させなければならないということだ。だからこそ、われわれは印刷されたページをめくりながら本を読むとナラティブ(物語)に非常に深いところで関わることになり、深く議論することができるようになる。対照的に大量の競合する情報や刺激に溢れているインターネットやコンピュータ画面上で(本を読むと)まったく逆のことが起きやすい。要するに、注意散漫に陥りやすいのだ。
印刷したものを読むことに比べると、オンラインで読む方が、視界を狭くしていることがある。
ものを覚えたり、学んだりするプロセスこそが、それが書かれた字であれ、他のことであれ、われわれの思考と知的な生活に深みを与えるものなのだ。
もし脳の中に何もなければ、何も考えることはない。情報は即見つけられるかもしれないが、その情報について複雑な思考や概念的な思考を持つことはない。多くのことを覚えないで、考えたり、クリエイティブになったりすることはできない。脳を他のことをするために解放したいから、覚える必要がないことはいいことだと言うのを耳にすることがあるが、脳はそのように機能しない。記憶は異なるシステムだ。
実際研究によると、できるだけ多くのことを記憶すると、新しいことを学ぶスピードも速くなることが分かっている。脳を記憶から解放することで、より賢くなると考えるのは間違いだ。
記憶しなければ、考えることができないから、物事を頭に入れないとだめだ。何でも検索エンジンで見つけることはできない。
考えることが減れば、それだけ検索に頼ることになり、検索に頼れば頼るほど、記憶しなくなる。そうするといつか頭が空(カラ)になる。問題は、自分の頭の中で物事を関連させて考えることをしないと、ますます外部にあるコンピュータベースに、関連することを頼ることになる。われわれの思考の豊かさは自分の脳の中にあるつながりから来るのであって、脳の外に存在するネットワークにあるつながりから来るのではない。
われわれの知的生活の深さや、さらにいえば、われわれの文化の深さ(豊富さ)の点では、現実に(後戻りが)起きているのだ。
インターネットをどのように活用するのがベストであるか分かっている大人でさえも、くだらない情報、重要でない情報であってもたくさんの新情報を探し続けられるということに、われを忘れてしまう。重要なことに注意を払わなくなってしまうのだ。
人を「shallow(浅薄)」にする。物事について創造的に、複雑に、概念的に考えることをできなくさせる傾向がある
インターネットよりも良い情報収集方法が存在するケースもある。また、インターネットに頼らない思考法もある