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2010年8月3日火曜日

『ブリューゲル全版画』

タイトル ブリューゲル全版画
タイトルよみ ブリューゲル ゼン ハンガ
責任表示 ベルギー王立図書館編
出版地 東京
出版者 岩波書店
出版年 1974
形態 図95枚 133p ; 40×52cm(解説:38cm)
注記 監修:ヘルマン・リバース 日本語版監修:土方定一 解説:ルイ・ルベール 訳者:二宮敬等
注記 帙入
入手条件・定価 38000円
個人著者標目 Brueghel,Pieter (1525?-1569)

プレート図版95枚揃

16世紀ネーデルラントの巨匠ピーテル・ブリューゲル(1525/30-69)は日本人にとても親しまれている画家です。ブリューゲルは聖書の世界、諺、子供の遊び、民衆の祝祭、農民の労働の主題を描いています。特に寓意をこめた作品では人間の弱点や愚行を諷刺と教訓、ユーモア精神によって表現しています。私たちはこうしたブリューゲルの芸術からヨーロッパの民衆文化の"ルーツ"や当時の道徳観を知ることができます。
 ブリューゲル版画は不特定多数の購買層のために制作されたので、当時の人々のさまざまな関心に応えています。例えば、アルプスの大自然の雄大さ、諺や「徳目」シリーズでの日常生活のあり方、《誰でも》や《錬金術》での人間の貪欲な姿、縁日を祝う民衆の解放感、船舶シリーズでの高度な造船技術などを伝えています。ブリューゲルの非凡な表現力はヨーロッパ中の評判となり、まさに16世紀の版画芸術の頂点に達したのです。さらに時空を超え、現代人の心に語りかけてきます。

ベルギー王立図書館が誇る国宝級のコレクションは、非常に良い状態で保存され、あたかも刷りたてのようなみずみずしい美しさを鑑賞していただけます。

ブリューゲルが民衆の姿を生き生きと捉えた縁日や季節の労働の主題は当時のコンテンポラリーアートとして人気を博し、同時代・次世代の画家たちに引き継がれていきました。描かれたキリスト教的な教訓や日常生活に密着した諺は人々の道徳観や生きる知恵を物語っています。

ヨーロッパで最も関心の高かったテーマ

■雄大なアルプス山脈の賛美と近郊の田園風景への親近感 The Homage to the Landscape
ブリューゲルは1551年、親方としてギルドに登録した後、イタリアに2,3年旅行した。帰国後、彼の仕事は「大風景版画」シリーズ用にアルプスの雄大な風景を制作することだった。切り立った巨峰の連山、大気感にあふれる広大な渓谷、対角線上にじぐざぐに流れる川などの構図で人々を魅了した。

■聖書の主題や宗教的な寓意を描く Biblical Subjects and Religious Allegories
ブリューゲルは《聖アントニウスの誘惑》や「七つの罪源」シリーズにおいて、画面に蠕動する奇怪な怪物や幻想的な構築物を導入しながら、約40年前に他界したヒエロニムス・ボスに接近しようとした。だが「七つの徳目」シリーズでは日常生活での道徳の実践を描き、ここの「徳目」にかつてない斬新な図像を創案した。

■武装帆船やガレー船の驚くべき表現力 The Detailed Expression of the Armed Ships
16世紀中期のアントワープはヨーロッパでも有数の国際商業都市として繁栄した。都市に面したスヘルデ川は諸外国からの船舶で賑った。船舶シリーズは貿易商人、仲買人、探検家だけでなく、多種多様な外国船に興味を抱く国際的な購買層を対象とした。ブリューゲルは海上の暴風雨に耐え、海賊船の不意の襲撃に応酬できる武装帆船を細部にわたり、船舶技術者のような目で描写した。

■人間観察と道徳教訓の世界 The World of Moral Allegories and Fools
16世紀はエラスムスを始め、人文主義者たちが活躍する時代で、版画の主題や銘文にも彼らの人間観・道徳観が反映されている。ブリューゲルは生涯を通じ、「人間とは何か」を問い続けてきた思想家でもあったが、家族をどん底に落とした《錬金術》、貪欲な商人を風刺する《金銭の戦い》などで、物欲に対する人間の愚行を風刺した。

■諺を通じて知る「青いマント」の世界 The World of the "Blue Cloak" observed through Proverbs
16世紀は諺の黄金時代を迎え、ヨーロッパ各地で多くの諺集の編纂・出版が行われた。人々は中世での「往生術(死への心得)からルネサンスの「現世での生き方」へと方向転換し、「民衆の知恵の房」である諺に強い関心をもった。造形美術の世界でも、諺を主題とした彫刻、版画、絵の全盛時代であったが、ブリューゲルは画面に何気なく諺を挿入したり、一点の作品に一つの諺を浮き彫りにするなど、諺の視覚化に意欲的だった。

■民衆文化や民話への共感 The Compassion for Popular Culture and Tales
村の縁日や農民の婚礼の踊りはブリューゲルの同時代の画家たちも描いている。しかしブリューゲルは彼らのように都会人の視線で農民を冷ややかに観察するのではなく、日ごろの重労働から解放され、村総出で祭りを楽しむ農民たちに親近感を抱いた。縁日の主題では宗教行事、路上劇、輪舞、スポーツ、ゲームなどをまるで動画のように描いている。

■四季や月暦表現で綴る市民の祝祭や農民の労働 Labors and Feasts from the Cycle of Seasons and Months
四季や月歴に関する貴族の愉しみや農民の労働はすでに中世の聖務日課書や時祷書に描かれていた。しかしブリューゲルは《夏》で、従来の並列的な営みではなく、水を飲んだり、大鎌を振って麦を刈る農民たちにスポット当て、大胆な構図に挑戦した。

当時の版画事情
描く人・彫る人・発行する人―版画ビジネスの誕生

15世紀までは多く、下絵、彫版、発行のすべてをひとりで行っていたのに対し、16世紀には工程の分業化が進んだ。まず画家によって下絵素描が製作され、それを専門の彫版師や発行者の手を経て版画商品として市場に出た。国際的な経済の中心地として急激な発展を遂げたアントワープに、1548年、「四方の風」という屋号の版画店を開業したヒエロニムス・コックは、マーケティング・リサーチを行ない、購買者たちの関心のあるテーマを発行した。それらは古代の廃墟、アルプスの雄大な風景や身近なフランドルの農村風景、民衆の祝祭、著名なイタリア・ルネサンス絵画の複製、建築用装飾図案などであった。彼はヨーロッパのみならず世界中にその販路を広げ、一大版画出版ビジネスの拠点を築きあげたのである。

版画による豪華なコレクション図録

ブリューゲルの油彩画を数多く所有するウィーン美術史美術館は、17世紀半ばにネーデルラント総督を務めたヴィルヘルム大公の豊かなコレクションに基礎を置いている。実はコレクションはすべて版画化されて、図録に記録された。こうした版画図録は当初大公の命によって刊行された後、大公の死後、コレクションが帝室の所有となると、帝室美術品ギャラリー図録として刊行され、版を重ねた。現在でも人気の高いブリューゲルの《バベルの塔》は、予約注文による豪華版図録『絵画芸術の劇場』を飾っている。一頁一点の見事な複製版画213点を収録した全4巻に及ぶこの豪華な図録からも、当時の複製版画の需要の一端が垣間見える。

著者紹介
ピーテル・ブリューゲル(1525/30-1569)

ピーテル・ブリューゲルは、16世紀ネーデルラントの最も偉大な画家である。1551年、アントワープの聖ルカ組合に親方として登録後、数年間、イタリアに滞在した。帰国後、アントワープで国際的な版画店を営むヒエロニムス・コックの許で、1555年から版画の下絵素描を数多く制作した。1563年にブリュッセルに移住し、師ピーテル・クック・ヴァン・アールストの娘マイケンと結婚。1569年、同地で病死する。

《主題と作風》
1559年頃から油彩画の制作に専念。大気感の溢れる風景表現、活気ある民衆文化の百科全書的な再現、深い省察による人間の道徳批判などは当時のハプスブルク家の為政者や人文主義者たちから高い評価を得た。さらに美術史上、初めて農民の世界を親近感のある眼差しで高い芸術性の対象とした。

《版画と油彩画》
ブリューゲルの版画作品と油彩画の相互関連性はきわめて重要である。版画での合成風景、主題を賑わす「づくし」的手法、多数の人物が登場する広場構図、民衆の日常生活の導入などがモニュメンタルな油彩画の中で昇華した。逆に農民の労働を描いた油彩画が後年の版画《春》《夏》のイメージ源となった作例もある。
ネーデルラント絵画史におけるブリューゲルの役割は計り知れない。その芸術は彼の二人の息子、孫、ひ孫たちだけでなく、ポスト・ブリューゲルの画家たちによって継承された。

ベルギー王立図書館 Koninklijke Bibliotheek van Belgie(Belgium)
 http://www.kbr.be/
アルベールⅠ世図書館
Bibliothèque Royale de Belgique
Koninklijke Bibliotheek van België
開館時間:月~金 9:00~16:45 土 9:00~12:00、13:00~16:45
休館日:日曜
住所:Boulevard de l'Empereur/Keizerslaan 4, 1000 Brussels
TEL:02-5195311 FAX:02-5195533

芸術の丘 (Mont des Arts)
ブリュッセルの下町と山の手を結ぶフランス式庭園の公園で市民の憩いの場になっています。南東の丘の上からは素晴らしい眺望が楽しめます。南西側は王立図書館、東側は王立美術館、パレ・デ・ボザール(コンサートホール)、楽器博物館がある芸術広場です。

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