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2010年8月9日月曜日

『古書修復の愉しみ』

アニー・トレメル・ウィルコックス著
市川 恵里 訳
税込価格2520円 (本体価格2400円)
白水社
発売日:2004年09月

A degree of mastery : a journey through book arts
apprenticeship(見習い(期間)、実習、徒弟(身分[期間・制度])、年季奉公、奉公)
Author: Annie Tremmel Wilcox
Publisher: Minneapolis, MN : New Rivers Press, (c)1999.
Series: Minnesota voices project, no. 88
ISBN: 0898231884 9780898231885
OCLC Number: 41542920
Description: xii, 210 p. : 1 ill. ; 23 cm.
Related Subjects:(9)

* Wilcox, Annie Tremmel.
* Anthony, William, -- 1926-1989.
* Books -- Conservation and restoration -- Iowa -- Iowa City.アイオワシティー◆米国
* Bookbinding -- Iowa -- Iowa City.製本(術)、製本業、装丁
* Apprenticeship programs -- Iowa -- Iowa City.
* Iowa Center for the Book.
http://www.iowacenterforthebook.org/
* Conservatie.
* Boekbinden.
* Scholing.

●内容紹介
触れただけでぼろぼろと崩れそうな古くて貴重な書物を丹念に修復してゆく。—手仕事の技を学ぶ愉しみ、実践する喜びをいきいきと描く。
当代一の書籍修復家に弟子入りした女性が、書籍修復家として成長する過程を自伝的につづった回想録。書籍修復という手仕事の技を学ぶ愉しみを実に詳しく、いきいきと描き出している。

●目次
始まりと終わり
道具
入門
世間の注目
修業の仕上げ

■ちょっと立ち読み
----------------------------ここから
古書修復の愉しみ

 『ロシア遠征詳述』。この本は手当てが必要になり、特別コレクションから階下の保存修復部にある私の作業台に送られてきた。(中略)

 まず目につく問題は表紙がないことだ。本文ブロックに付着して残っているのは、タイトルを貼ったもとの革表紙の背だけである。革は仔牛革らしく、レッドロットが出ている。レッドロットとは、古くなった革が赤くなり、ちょっと触れただけでぼろぼろと崩れてくる状態をいう。本の状態を調べていると、両手が革のくずだらけになる。本文ブロックの背に革表紙をじかに接着させたタイトバックの本なので、背の部分は残せないだろう。だが、うまくいけば、タイトルははがして再利用できそうだ。

 次に本文ブロックを点検する。本を開くと、古書によくあるかすかに黴くさい匂いがする。ページにはフォクシングと呼ばれる茶色いしみがある。紙の修復処置をすれば、しみは薄くなるだろうが、取り除くのは難しそうだ。これほどひどいフォクシングは、ふつう洗浄だけでは落ちない。(中略)

 『ロシア遠征』のもうひとつの大きな問題は、本文紙が劣化してすっかり腰がなくなっていることだ。ページの縁は多少毛羽立ち、ところどころ破れている。製紙過程でどのような内面サイズや表面サイズを使ったにせよ、洗浄すれば落ちてしまうし、そうなればページはいっそうやわらかく、もろくなる。これは問題だ。本文紙を再度綴じる前に、紙の強度を高めるため、もう一度サイジング(滲み止め)をする必要があるだろう。書物および紙資料の修復家の仕事でもっとも重要な原則のひとつは、取り扱う本を、受け取ったときより良い状態で返すということである。

*     *     *

 初めてビル・アンソニーに会ったのは、1983年10月のある晴れた日のことである。私はアイオワ大学の活版印刷所ウィンドホヴァー・プレスで活字を組むのに忙しかった。3年前からそこで働きながら、キム・マーカーの下で、美しい書物の印刷に必要なすべてをゆっくりと学んでいるところだった。手で活字を組み、刷りあがったばかりの紙を引き出すリズムが好きだった。(中略)キムから保健学図書館に行かないかと誘われた日、午後の工房には私しかいなかった。シカゴのビル・アンソニーという製本家・書籍修復家が、保健学図書館のジョン・マーティン稀覯書室のために修復した書物の一部を届けに来たという。処置の過程を撮ったスライドの上映も予定されており、キムはそれを見たがっていた。(中略)

 最初のスライドは、17世紀半ばに出たヴェサリウスの医学書の修復前の姿で、かなり状態が悪そうだった。ページは汚れ、ところどころ破れている。いかにも扱いが難しそうな本だ。しかし私はスライドよりも、説明する男性の方に惹きつけられた。50代半ばとおぼしき真面目そうな顔の温厚な紳士が、穏やかな声で話している。私の注意を惹いたのは、アイルランド訛りの強いその声だ。ビル・アンソニーその人だった。

 彼が次々にスライドの説明を続けるうち、私は思わず引きこまれていた。修復のため、本を完全にばらばらにしている。私は新しい本を組み立てることしか知らなかった。どうやってページをばらばらにしたのだろう?
本を洗って乾かすなんて、どうしてそんなことができるのだろう?
いったい全体どうやって全部のページをふたたび順番どおりにまとめて製本したのだろう?
----------------------------ここまで

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